今回はそのtZEROとINXの二大巨頭の構図を元に、主に次のことについて解説していきます。
◎tZERO ATSの「ATS」って何?
◎tZEROとINXの二大巨頭の構図に割って入る可能性のあるSecuritize(セキュリタイズ)って何?
解説の過程で「米国の証券取引所運営のルール」にも詳しく触れていますので、結果的にそれらの知識も獲得できる内容になっています。
米国の証券取引所運営のルール
まずは大前提として、アメリカにおける証券取引所運営のルールの解説から入ります。
米国では、証券の売買を行う取引所を運営するには、次のA・Bどちらかの手続きを踏まなければならないとされています。
B. SECから取引所登録免除の適用を受ける
(※SEC=米国証券取引委員会)
これは1934年証券取引所法に基づく決まりごとです。前回の記事で取り上げた1933年証券法はプライマリーマーケット(発行市場)を規制する法律ですが、この1934年証券取引所法はセカンダリーマーケット(流通市場)を規制する法律になります。
Aの届出によって運営されるのは「国法証券取引所(national securities exchange)」と言われます。現在の米国では「ニューヨーク証券取引所」や「NASDAQ」などの大手取引所がこれに該当します。SECによる厳しい監督・審査のもとで運営の承認が下りる、いわば本格的な証券取引所です。
一方、Bの届出によって運営される代表となるのは「ATS(代替的取引システム)」と言われるものです。このATSは“Alternative Trading System”の略で、証券を売りたい人と書いたい人とを電子取引でつなぐ、いわば相対取引の場のことです。現在米国では60ほどのATSが存在し、その一覧はSECホームページの「ATS List」に開示されています。
このATSもカテゴリーとしては「取引所」に属しますが、Aのような国法証券取引所ではなく私設取引の場という扱いのため、その運営にはAほどの厳しい監督や規制は受けません。具体的な届出としては、取引所としてではなくブローカー・ディーラーとしてSECに登録し、以後「Regulation ATS」という規律に従って運営がなされることになります。
ちなみに、A・Bどちらの届出をすることもなく証券の売買を行う取引所を運営した場合、それは連邦法に違反した「犯罪」という扱いになります。
事実、2018年11月に「EtherDelta」という暗号資産の分散型(と銘打った)取引所の運営者が、A・Bどちらの届出もすることなく証券とみなされる資産を売買する取引所を運営していたとして摘発されました。また、2021年8月には暗号資産取引所「Poloniex」も全く同じ理由でSECに告発されたことが発表されています。
tZEROとINXが運営する取引所の現状
では、セキュリティトークン取引所の運営しているtZERO社とINX社は、A・Bどちらの規制に従っているのでしょうか…?
答えは、両者ともにBです。
つまり、tZERO社もINX社も共に現状はATSのライセンスを元に取引所を運営しているのです。
厳密に言うと、tZERO社もINX社もイチからATS運営のライセンスを取得したわけではなく、どちらも既存のATSをそれぞれ買収し、現在はそれを自社ATSとしてリブランディングして運営しているという形です。
◎INX社→「Openfinance Securities」を買収して「INX Securities」に名称変更
したがって、tZERO ATSでもINX Securitiesでも、そこではセキュリティトークンを売りたい人と買いたい人との相対取引にて売買が成立しています。 相対取引なのでAと比較すると全体の取引量は少なく、取引板がスカスカである日も多いです。
ただ、tZERO社は現状のtZERO ATSに加え、今後BSTX(ボストンセキュリティトークン取引所)の運営も予定しています。これはBOX Digital Markets社とtZERO社が共同出資をしてジョイントベンチャーの形で運営が予定されている取引所であり、これに関してはAの証券取引所のライセンス取得を目指しています。
もしこのBSTXがAのライセンスを取得できれば、それは米国初のSECに登録されたセキュリティトークン取引所となるためかなりインパクトは大きいのではないかと思います。前回の記事では「INXと比べてtZEROは取引所の新規顧客獲得に苦戦している」旨を指摘しましたが、このBSTXが国法証券取引所として承認されれば情勢も大きく変わってくるかもしれません。
Securitizeもセカンダリーマーケットに参入
ここまで、米国の証券取引所運営のルールと、それに伴うtZEROとINXの取引所の位置づけを解説しました。両者ともに現状は証券取引所ではなく、相対取引が行われるATSを運営しているのです。
そしてもしかすると、今後セキュリティトークン取引所市場を牽引するのはtZEROとINXだけではないかもしれません。この二社とは別に、今後新たにセキュリティトークンのセカンダリーマーケットで猛威を振るいそうな雰囲気を醸し出している会社があります。
それが「Securitize(セキュリタイズ)」という米国の会社です。
Securitizeは、元々は企業の株式やファンドをトークン化する(セキュリティトークンを発行する)手助けを行うプロジェクトを実施しており、この記事執筆時点で顧客数は100社を超えています。既存のセキュリティトークン系プロジェクトである Harbor や VRBex のアドバイザーも務めていました。
これまで数々の企業から何度も出資も受けており、日本の企業でいえば野村ホールディングス・三菱UFJフィナンシャルグループ・KDDI・三井不動産・グローバルブレインなどなど、複数の大企業が数年前にSecuritizeに出資しています。2021年6月には新たに4800万ドル(約53億円)の資金調達を行ったことが発表されており、そこではNTTデータ・三井住友信託銀行も資金提供を行っています。
このような出資状況からも、日本の主要金融グループがセキュリティトークン及びSecuritizeに大きな可能性を見出していることがわかります。もちろん日本だけでなく海外の大手企業もこれまで複数進んで出資していますので、世界の名だたる企業から期待されている存在と言えます。
そんな数多くの大企業から期待され、これまでプライマリー市場(発行市場)を主戦場にプロジェクトを展開していたSecuritizeが、着々とセカンダリーマーケットへの本格参入を進めています。セキュリティトークンの“発行”だけではなく“流通”の管理も見据えて動いているということです。
事実、2020年には既存ATS(Distributed Technology Markets)を買収しており、それを「Securitize Markets」にリブランディングすることになっています。ブローカーディーラーのライセンスを持つ既存ATSを買収して自社ATSとして運営をする点は、tZEROやINXと同様ですね。
◎INX社→「Openfinance Securities」を買収して「INX Securities」に名称変更
◎Securitize社→「Distributed Technology Markets」を買収して「Securitize Markets」に名称変更
このSecuritizeがtZEROやINXと明らかに異なる点は、Securitizeは元々セキュリティトークンの“発行”手助けを行うプロジェクトなので、セカンダリー市場の参入により「発行から流通までの一連の流れを商品としてパッケージ化できる」ということです。
したがって、今後このSecuritizeのセカンダリーマーケット参入を機に、もしかするとセキュリティトークン取引所プレイヤーの勢力図に変化が起きるかもしれません。いずれにせよ、これによりセキュリティトークン市場自体はさらなる盛り上がりを見せる可能性は高いので、期待しながら今後の情勢を見守っていこうと思います。
⇒「Securitize Markets口座開設方法(セキュリタイズID登録から全て解説)」
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