ツァイガルニク効果とは?認知心理学の具体例とマーケティングへの応用
ここでは“ツァイガルニク効果”という認知心理学上の記憶における効果を詳しく解説します。

この記事を読むことで理解できること
・「ツァイガルニク効果とはどのような心理現象か?」
・「日常でツァイガルニク効果があらわれる具体的場面とは?」
・「ビジネスでこのツァイガルニク効果をどのように利用できるのか?」

この記事には、これまでの経験の中で「確かに自分のそんなことあったな~」と感じるものが含まれていると思いますので、ぜひ最後まで読んでほしいと思います。

それでは、まずはツァイガルニク効果について簡潔にまとめた以下の動画をご覧ください。


以下、これについて詳細に解説していきます。


ツァイガルニク効果とは?



“ツァイガルニク効果”とは「目標が達成されない未完了課題についての記憶は、完了課題についての記憶よりも想起されやすい」という認知心理学上の記憶における効果のことを言います。

(ちなみに“ツァイガルニク”というのは、旧ソビエト連邦の心理学者の名前です)

要は「人は、完成されたものよりも、未完成のものをより強く記憶する」ということですね。これを別の言葉で言えば「人は、完成されたものよりも、未完成のものに心を強く引き付けられる」と表現することもできます。

例えば「学生時代の文化祭で一番楽しかった思い出は何か?」と思い返してみて下さい。最も楽しかった思い出は「文化祭当日の出来事」よりも実は「文化祭当日に向けてみんなで準備をしているとき」だったのではないでしょうか。

「修学旅行で一番心が弾んだのはどの瞬間か?」と思い返してみて下さい。一番わくわくしたのは「修学旅行先の現地についてから」ではなく、実は「現地に着く前のバスの中」だったのではないでしょうか。

このように、人は「これから始まる・まだ到達していない・未完成のもの」に対して強く引き付けられるのです。「完成されたものよりも、未完成なものが出来上がっていく過程に対して、人は楽しみを覚える傾向がある」と言うこともできますね。


ツァイガルニク効果がよくあらわれる具体的場面


「完成されたものよりも、未完成のものに心を強く引き付けられる」

この人間の性質をうまく利用して作られているのが、漫画や映画などのストーリーです。よくできたストーリーには、必ず謎が存在します。「このキャラクターの発言にはどんな意味があるんだろう?」「この二人の関係はどうなっていくんだろう?」など、そのような謎が、ストーリーを読み進めさせる推進力になるのです。

そもそも「謎」というのは、明らかになっていないという点で未完成ですからね。その未完成のものを完成させたい(真相を知りたい)と強く思うからこそ、そのストーリーの続きが知りたくなるのです。

例えば『名探偵コナン』の登場人物の中で、最も謎に包まれている神秘的存在と言えば、黒の組織の一人・ベルモットでしょう。その謎の多さゆえに、黒の組織の一員の中でも最も読者を魅了するキャラクターとなっています。



彼女はアメリカの大女優、クリス・ヴィンヤードとして活躍しており、容姿端麗でありながら洞察力にも優れた才色兼備の女性です。その優れた才能を買われてか、黒の組織のボス(通称「あの方」)からは相当気に入られています。事実、黒の組織の中では、コナンや灰原哀の正体を見抜くことのできた数少ない存在の一人で、その洞察力は計り知れません。

しかし、敵とされる黒の組織の一員でありながら、ストーリーではコナンに加担するような言動がいくつか散見されるため、現時点では敵なのか味方なのかは一概に判断できないのです。

具体的にコナンの敵とは言えないような描写としては、

●コナンや灰原哀の正体を知っていながら組織にそのことを伝えない

●コナンがバスジャックに銃口を向けられた際、医者の新出智明に変装した状態で、身体を張ってコナンを守ろうとした(29巻)

●本物の新出智明は、かつて自分に変装したベルモットについて「僕に変装していたその人って…本当に…悪い人だったんですか」と、悪い人であることを疑問視している(45巻)

●毛利小五郎が黒の組織の暗殺ターゲットになった際、ジンに対して小五郎をかばうような発言を数回している(49巻)

…などがあります。

そして個人的に一番印象に残っているのは、コナンを指して発したベルモットの以下のセリフ(42巻)です。

「彼ならなれるかもしれない…長い間待ち望んだ…シルバーブレットに…」

この「シルバーブレット」とは、組織を一撃で破滅させるものを示しており、この発言から、実はベルモットは組織が破滅することを待ち望んでいるのかもしれない、と解釈することができます。

さらに、「ベルモットはなぜ年をとらないのか」という謎も未だに解明されておらず、非常に謎に満ちた存在なのです。本人の性格も徹底した秘密主義で、名言は、

“A secret makes a woman woman”「女は秘密を着飾って美しくなる」

ですからね。このような謎多き神秘的なキャラに魅力を感じる読者は多いはずです。「一体こいつは何者なんだ?」と気になって、ついついストーリーの先が知りたくなってしまいます。

このように、ストーリーにおける「謎」というのは人を引きつける力を持っていますが、それは人間に本来的に備わる“ツァイガルニク効果”をうまく活用したものなのです。


ツァイガルニク効果を利用したビジネス手法


そしてこれを利用した手法は、多くのビジネスの場面で用いられています。

その最も代表的なのが、テレビ番組がCMを入れるタイミングですね。「続きはCMの後で!」という形で、一つの話題が未完結の状態でCMに入り、続きが気になるように仕向けて視聴者にチャンネルを変えさせないようにする、これはツァイガルニク効果を利用した典型的な手法です。

また、ディズニーランドの設計なんかも、ツァイガルニク効果をうまく利用していると言えます。

ディズニーの場合、朝から一日中パーク内にいたとしても、その一日だけで全てのアトラクションに乗ることはまず不可能です。人気のアトラクションは混雑時には並ぶだけで2時間かかるということが普通ですので、並んでいる時にかなりの時間をとられてしまって結局物理的に乗ることができないアトラクションも出てきてしまうのです。

すると、ディズニーに訪れた人は「今回はホーンテッドマンション行けなかったから、また次来よう」という気になる人がでてきます。すべてのアトラクションを楽しむことができず、未完成の状態で終わってしまったため「全てのアトラクションを制覇したい」という気持ちが芽生えるようになるのです。こうなれば、その人は制覇するためにまたディズニーランドに来てくれることになりますね。

事実、ウォルト・ディズニーは「ディズニーランドは常に未完成でなければならない」と言っています。完成されたものはそれ以上の進化がなく、その後は飽きられてしまうだけなのです。

そのように考えると、ビジネスでサービスを提供する際は、必ずも完成されたものを提供する必要はないということがわかります。「未完成のものを顧客とともに創り上げていく」、そのような体験の方が、実は顧客にとってはより価値あるものになるかもしれません。
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