今回は「お金と扇動」というテーマ書いていこうと思います。

この記事を読むことによって、何気ない日常で私たちが他者の意図する方向に誘導されてしまう(扇動されてしまう)具体的な事例や、その扇動を可能にする強力な技術と言えるプロパガンダの一部を理解できるようになります。

そしてその上で、
「お金の文脈において、いかに私たちがプロパガンダによって特定の他者の都合の良いように扇動され、不利な立場に置かれてきたのか」
という現状もしっかりと理解できるようになりますので、ぜひ最後まで読んでほしいと思います。

それでは、まずは「お金と扇動」を解説こちらの動画からご覧ください。


以下では、この内容に沿って詳細に説明していきます。


扇動とは?


まずは「扇動」という言葉を説明するにあたって、当ブログの過去の記事でも触れた内容を具体例にするところから始めていきたいと思います。

国家による扇動①「貯金に対する美徳意識」


まず、私たちの多くは「銀行や郵便局にお金を預けて、貯金をすることはいいことだ」という感覚を持っています。世間一般には「貯金は美徳である」という風潮が根強く残っているのです。

では、なぜそのような貯金を美徳とする意識が一般的になっているのか…?

その理由は、過去のこちらの記事「預金や貯金の知られざる実態!貯蓄美徳の意識はどこで形成されたのか?」でも説明した通りです。太平洋戦争当時、多額の戦争費用が必要だった国家の政策によって、私たち日本人の多くは「貯金はいいことだ」という意識を持つようになったのです。

その詳細な経緯については当該記事をしっかり読んで理解してほしいのですが、当時の日本の政府は、多額の戦費を調達するために国民に対して次のようなスローガンを掲げました。

「自分たちが勝つために・自分たちの生活を守るために、お金を貯めよう!」

そしてそのようなスローガンを掲げたポスターをいたるところに貼り、日常的に人々の目に触れさせることで「日本国民としてお金を貯めることはえらいことなんだ」という意識を徐々に芽生えさせていったのです。

このようなスローガンに感化された国民は「自分も日本国民として国に貢献する!」「国と一丸となって自分たちの暮らしを守る!」という強い愛国心が芽生えるようになります。ここから「貯金をすることは素晴らしいことだ」という価値観が形成されることになったのです。

いわば、国家の政策に基づいた言葉によって、私たちは特定の価値観を持つようになったということです。そしてその価値観が、時代が変わった今でも世代を超えて引き継がれた結果、現代では「貯金はいいことだ!」という意識だけが一人歩きしている状態なのです。

このように、大多数の人に向けて特定の言葉を発したり演説したりすることで、その大多数の人々の心理を掴み、自分の意図する方向に誘導する行為を「扇動」と言います。

つまり、当時の国民は、国家によって「貯金は素晴らしいことだ」という意識を持つように扇動されていたことになります。

国家による扇動②「戦地出陣の正当性」


もう一つだけ、扇動の例を挙げておきます。

これは太平洋戦争に限ったことではないですが、戦時中その戦争に勝つためには、戦地に兵隊として出陣する戦争部隊の存在が当然必要です。

ただ、普通に考えて、自ら進んで「紛争が起きている地に行って兵士として戦いたい」という人はほとんどいません。自分の命を落とす可能性のある行為を進んでやりたいと思う人は、普通いないはずです。

しかし、国家としては兵隊となる人材を確保しなければいけない…。そこで、国は大量の戦争部隊を確保するためにどのような政策に出るかというと、国民に対してこのような言葉を掲げるのです。

「我々の祖先が残した風習をここで途絶えさせてはいけない!」
「国のために身を呈して戦って我が国の伝統を守ってこそ、善良な国民としての証だ!」

このように「戦わなければ国は滅びてしまう。そして滅びるということは、私たちの祖先が築き上げてきた伝統をないがしろにするということであり、それはこの国の民としてあってはならないこと。国のために忠義を尽くして戦い、伝統を守ってこそ、立派な国民である」という趣旨の言葉を掲げるのです。

現に、近代の日本の教育方針となっていた「教育勅語」には、次のような文言があります。

・「一旦緩急あれば義勇公に報じ、もって天壌無窮の皇運を扶翼すべし」
(ひとたび非常事態(戦争)が生じた際には、勇敢な心を持って公のために奉仕し、永遠に続く皇室の運命を助けるようにしなさい)

・「是の如きは獨り朕が忠良な臣民たるのみならず、又以って爾祖先の遺風を顕彰するに足らん」
(これらのことは、あなたが善良な国民であるというだけでなく、私達の祖先が残してきた伝統的風習を褒め称えることでもあります)

この教育勅語は1890年に発布されて以降、全国の学校に配布され、定期的に読ませることで、善悪の判断力の弱い児童のうちからこれが道徳的に正しい基準であると教え込んでいきました。

これにより、児童には「国のために忠義を尽くして戦ってこそ善良な国民の証だ」という意識を持つようになるのです。

これも、一部の権力者の言葉によって多くの人がその権力者の意図する方向に誘導させられる、扇動の例と言えます。


プロパガンダとは?


そしてここで注目したいのは、国家が国民を扇動する際に用いている言葉の使い方です。

実はこの言葉には、多くの人を扇動するための「プロパガンダ」という技術が駆使されています。プロパガンダとは、主に国家やマスメディアが、国民を扇動するために古くから用いてきた巧みな技術になります。

初めの貯金の例では「自分たちの暮らしを守るため」という普遍的に大事な事柄と結びつけることで、貯金するという行為を正しいこととして認識させています。

もう一つの戦地出陣の例では「祖先の築き上げてきた伝統を守るため」という道徳的に正しいと言える事柄と結びつけることで、国に忠義を尽くして戦うことが正義であるという認識を持たせています。

両者に共通しているのは、普遍的に大事だとされることや道徳的に正しいと言えることと、国民に誘導したい行為とを結びつけているという点です。実際「暮らしを守る」のは誰もが生きていく上で普遍的大事なことですし、「自分の祖先を重んじる」のも倫理的に悪い行為という人はいません。

このように「誰も文句のつけようがないほど普遍的に正しいと思われる事柄と結びつけることで、特定の行為や思想を正当なものと認識させる」というのは、複数あるプロパガンダの技術のうちの一つなのです。

とりあえず、ここまでをまとめると、次のようになります。

◎「扇動」…演説や論説によって大勢の人の心理を掴み、自分の意図する方向に誘導すること
◎「プロパガンダ」…(しばしば国家やメディアが国民を)扇動するために用いる巧みな技術

プロパガンダの技術「華麗な言葉による普遍化」


なお、このプロパガンダには複数の技術がありますが、主要なものは次の7つになります。

●レッテル貼り(Name Calling)
●情報操作(Card Stacking)
●衆人に訴える論証(Bandwagon Effect)
●権威に訴える論証(Appeal to authority)
●平凡化(Plain Folks)
●転移(Transfer)
●華麗な言葉による普遍化(Glittering Generalities)

そしてこのうち、先ほど挙げた貯金の例と戦地出陣の例で使われているプロパガンダは「(華麗な言葉による)普遍化」という技術になります。

これは先ほど言ったように「物事を道徳的・普遍的に正しとされる事柄と結びつけることで、相手にその物事を美徳であると認識させたり、その物事の正当性を認識させる技術」のことを言います。

先ほど挙げたのは国家レベルでの話なので、もう少し日常に馴染みやすい例を挙げると・・・

例えば、何かに失敗して落ち込んでいる人に対して言葉をかける際、「君は失敗したんじゃなくて、そのやり方ではうまくいかないことを新たに学習できたんだ」のように表現するのが「普遍化」の技術です。

「学習」や「成長」といった、 誰も文句のつけようがないほど普遍的にプラスと思われるワードと結びつけることで、起きた現象をポジティブにとらえさせるのです。

また、もう一つ例を挙げると・・・

ボクシング経験者が、未経験者に対してボクシングでの試合を申し入れる際、「どんな時でも逃げずに勝負に応じるのが男というものだ」という言葉をかけるとすれば、これも普遍化の技術が施されていることになります。

「男として当然の行為」という美徳観と結びつけることで、勝負に応じることの正当性を認識させるのです。

プロパガンダはプラスにもマイナスにも機能する


なお、この二つの例は両方とも「普遍化」の技術が施されている点では共通していますが、両者の間には決定的な違いがあります。

それは、前者の例が「相手をプラスの方向に導くことを意図して言葉をかけている」のに対し、後者の例は「相手を利用して自分を有利な方向に導こうとして言葉をかけている」点です。

前者のように、落ち込む人を励ます文脈でこの技術を使うのであれば、相手のネガティブな意識を払拭してその後も挑戦していくモチベーションを持たせることになるので、結果として相手にとってプラスになります。そのような意味では、前者はどちらかと言えば「良心的な使い方」と言えると思います。

ただ一方で、後者のように、ボクシング経験者のない人にボクシングルールで戦わせるような、明らかに勝ち目のない他流試合をさせる文脈でこの技術を使う場合、それは特定の美徳観を植えつけて自分が勝つのに有利な状態を作り上げていることになります。

これは『孫子の兵法』の「善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり」という言葉に通じるもので、「戦い上手の人間は、勝ちやすい状態を作り上げた結果勝つ人だ」ということです。

これは戦を自分な有利な方向に進める上での巧みな策略ではあるものの、相手からすれば策に乗せられて利用されているだけなので、この後者の例は「搾取的な使い方」と言えます。

このように、プロパガンダというのはそれを使う人の意図によって、相手をプラスの方向に導くこともできれば、逆にマイナスに陥れて搾取し続けることもできると言うことになります。

つまり、プロパガンダの技術そのものには善も悪もなく、善悪の対象はそれを駆使する人間の側にあるということです。プロパガンダ自体はニュートラルなもので、ただそこには人を動かす大きな力が存在するというだけです。

これは、自動車に例えるとわかりやすいかと思います。自動車は、適切に使えば人々の暮らしを快適にすることができる乗り物になりますが、使い方を間違えれば人に壊滅的な被害をもたらす大きな鉄の塊(凶器)にもなりますが、プロパガンダの力もそれと同じということです。


お金の文脈で搾取される人々


では最後に、これまでの内容をもとに「お金」という文脈において、私たちに施されているプロパガンダの事例を見ていくことにしましょう。

実は私たちは、お金にまつわる事柄においては、他者のプロパガンダ技術によって大きくマイナス方向に搾取されていることが多いのです。

お金の話はしないのが美徳?


例えば、私たちの多くは「お金に関する具体的な話をするのはいやらしいこと」という価値観をもって育ってきています。いわば「お金の話はしないことが美徳である」という意識をもつ人が多いわけですが、そのような意識を持ち続けていると、一向にお金について深く考えることがありません。

学校でもお金の教育がなされることはないので、その結果、いつまでたってもお金についての正しい知識をつけることなく、マネーリテラシーのない状態のまま、身体だけが成長して社会に放り込まれることになります。

汗水流して働くことが美徳?


そしてそのような状態で、お金について学ぶことがないまま普通に暮らしていると、私たちの多くは労働者として育て上げられます。これはこちらの記事「学校ではなぜお金の教育をしないのか?その理由を徹底解説!」でも述べましたが、学校教育の本来の目的が労働者を育成することにある以上、これは紛れもない事実です。

そして労働者として時間を労力を費やしてそれと引き換えにお金を得る生活に慣れてくると「お金は時間をかけて汗水流して得られる大事なものだ」という意識が芽生えてきます。

いわばお金という価値のあるものを得る手段がそれだけになってしまうので「汗水流して働くことが美しいことなんだ」という美徳意識が形成されるのです。

その結果、いつまでたっても時間と労力を奉仕することでしかお金を生み出せない人になってしまいます。収入もコントロールできず、税金もコントロールできず、さらには大事な時間も奪われて様々な面で搾取される、そんな不利な状態側から抜け出せなくなるのです。

マイホームを持つことで一人前?


また、日本では古くから「マイホームを持ってこそ一人前の証だ」といった風潮がありますが、これも「一人前の男として当然なんだ」という美徳意識と結びつけることで、マイホーム購入を正当化してその行為を促そうとする「普遍化」の技術です。

そしてお金の知識を持たないまま、その美徳意識によってマイホームを購入した人は、長年にわたって負債を抱えることになり、そのローンを支払うために毎月時間と労働を奉仕してお金を稼ぐという支出と収入のいたちごっこから抜け出せなくなるのです。

これは前回の記事「お金に支配されて奴隷となる人とそれを利用するお金持ちの違いとは?」でその状況を詳細に記述しているので、そちらも併せて読んでほしいと思います。

貯金をするのはいいこと?


さらに、冒頭でも述べたように、私たちには「貯金をするのはいいことだ」という意識が根付いています。つまりお金は貯めるのが普通であるという感覚を持っているのです。

これにより、いつまでも貯金型思考から抜け出せず、「お金を使ってお金を増やす」という投資型思考を身につけることができなくなります。いつまでたっても賢いお金を増やし方の選択肢を持つことがないのです。


このように、特定の美徳意識を植え付けられることで(普遍化の技術を駆使されることで)、私たちはお金について学ぶ機会を与えられないまま、「効果的なお金の稼ぎ方」も「適切なお金の使い方」も「賢いお金の増やし方」も身につけることなく、経済的に弱い人間になっていってしまうのです。

そしてそのような状態にならないためには、他の記事でも何度も指摘しているように、しっかりとお金の勉強をしていくべきだという結論になります。


まとめ


ではここで、これまでの内容をまとめておきます。

◎プロパガンダは、国民を扇動するために、国家やマスメディアなどによって古くから長きにわたって利用されてきた技術であり、非常に大きな力を持つ。しばしば政治的な意味合いで使われることが多い。

◎プロパガンダの技術は、正しく使えば人をプラスの方向に導くこともできるが、悪意を持った使い方をすると、自分のために人を搾取することもできてしまう。

◎私たちは、お金にまつわる事柄においては、プロパガンダ技術によってマイナスの方向に搾取されていることが多い。

◎お金の文脈で搾取されないようにするために、これまで蔓延している美徳意識を取っ払って「効果的な稼ぎ方・正しい使い方・賢い増やし方」を含むお金の勉強をしっか理としていくべき。