YouTubeの暴利を貪るビジネスモデル完成までの歴史まとめ
本記事のテーマは『YouTubeのえげつないビジネスモデルができるまでの歴史』になります。

ここで「えげつない(露骨でいやらしい)」と表現したのには理由があります。

YouTubeは現在、YouTubeプレミアムという “広告なしでYouTube動画を視聴できる”サービスを提供しています。多くのYouTube視聴者にとって広告は鬱陶しいものなので、“その邪魔な広告なしで視聴を楽しめる”点において一見これは人々の需要を満たす素晴らしいサービスに見えます。

しかし、その広告は元々は、YouTube側が個人や企業から取ってきたものです。YouTube側は、主に自社の広告を載せたい企業からお金をもらい(視聴者にとって鬱陶しい)その広告を掲載しているのです。

つまりYouTubeは、商品・サービスを販売する個人や企業に対しては「お金を払ってくれれば広告載せますよー」と言ってお金をとりながら、同時にYouTube視聴者に対しては「お金を払ってくれればその広告消しますよー」と言ってお金をとっているのです。


YouTubeの二面性

◎商品・サービス販売者には「広告って大事ですよね」という顔を見せる
◎YouTube動画の視聴者には「広告って邪魔ですよね」という顔を見せる


この二つの顔を使い分け、両者に対してそれぞれ真逆のサービスを提供してその両方からお金をとっている点は「えげつない」と言わざるを得ません。

今回は、そんなビジネスモデルが構築されるまでのYouTubeの歴史を、私独自の視点も交えながら簡潔にまとめたいと思います。

【2005年】YouTube黎明期のブースト装置とは?


YouTubeは今でこそオンラインビデオプラットフォームの頂点に君臨する超巨大媒体ですが、もちろん創業当初からすぐに今のような巨大媒体になったわけではありません。

YouTubeの創業は2005年。当初は今のような影響力のある人気クリエイターなどは存在せず、ごく一部の素人が短い動画を内輪ノリで投稿する程度の弱小プラットフォームだったのです。

当然、知らない人のホームビデオを積極的に見たいと思う人はほとんどいないので、これだけではYouTubeユーザーが大きく増えることはありません。しかも当初は動画作成ノウハウも確立されていないため、投稿される動画はお世辞にもクオリティが高いとは言えないものばかり…。これだけでは弱小プラットフォームのままです。

そんな創業当初のYouTubeにブーストをかけたものは何か…?

それは「違法コンテンツ」です。

素人が趣味で投稿する動画はクオリティが低い一方、テレビ番組や映画などのコンテンツは圧倒的にクオリティが高いです。それらのコンテンツを面白がって違法アップロードする人が出てくることで、少しずつYouTubeのアクティブユーザーが増えくるようになりました。

もちろん、今では違法なコンテンツは厳しく規制され容赦無く削除されますが、創業当時はあえて違法なものでもYouTube側は一部見て見ぬふりをすることで、それがYouTubeのアクティブユーザー増加に大きく貢献したことになります。

もうこの時点でお分かりのように、YouTubeは初期の段階から「えげつなさ」全開だったのです。もちろん、これは決してYouTube側が違法コンテンツを作成していたわけではありませんが、ユーザーによる違法アップロード行為にあえて目をつぶることでユーザー数を増やしていく行為はあまりにも露骨と言えるでしょう。

しかし、仮にこのようなことをせず、創業当初から違法なコンテンツはすぐさま徹底して排除するという姿勢をとっていたとすれば…もしかすると初期からずっとアクティブユーザーは増えず、YouTubeは途中で廃れていたかもしれません。そして別の媒体がオンラインビデオプラットフォームの覇権を握っていたかもしれません。

そのようなことを鑑みると、これはえげつないやり方ではあるものの、個人的に「ビジネス初期の段階でいかに「0→1」を作るか」を考える上では参考になる一例だと考えています。

特に「場」を提供するサービスの場合、初期段階から利用者にクリーンさを求めてそれにそぐわない人を有無を言わさず締め出すような姿勢は、自分の首を締めることにもなりかねません。YouTubeのように利用者の違法行為を黙認するのはさすがに露骨すぎますが、それでも、はじめから利用者に品行方正を求めることが自分(のビジネス)の成長を阻害する可能性があることは知っておくべきでしょう。

そして、このような過程で徐々にユーザー数が増えてきたYouTubeに目をつけたのが、天下のGoogleです。Googleは早期にYouTubeの可能性を察知し、YouTube創業の翌年となる2006年、16億5000万ドル(約2000億円)でYouTubeを買収しました。ここから、天下のGoogle様の怒涛の快進撃が始まります。

【2007年】審査制でYouTubeパートナープログラムを開始


YouTubeを買収した翌年の2007年、Googleは米国在住の特定のYouTube動画投稿者に対して、動画に広告をつけて収益が得られる「YouTubeパートナープログラム」を開始しました。

「YouTubeに動画を投稿してお金を稼げる」というのは今でこそ周知の事実となっていますが、その嚆矢は2007年なのです。日本では2008年にこの同プログラムが開始されています。

当初のYouTubeパートナープログラムは“審査制”であり、一定の条件をクリアしたアカウントだけが広告収入を得ることができました。その条件の中には当然「動画のオリジナル性」も含まれており、違法アップロードをするアカウントに対しては(建前上は)審査は下りません。

この時期から、YouTubeは徐々に「一部の違法アップロードをも黙認してコンテンツの充実を図る」というフェーズから「一部の動画投稿者にインセンティブを与えてオリジナルコンテンツの充実を図る」というフェーズにシフトし出したことがわかります

違法コンテンツは初期のブーストに利用するだけ利用しておきながらも、フェーズが変われば少しずつではあっても容赦無く削除し始める…このようなやり逃げ行為を敢行するあたりにも、シリコンバレーならではの「えげつなさ」が垣間見えます。

もちろん、一部の動画投稿者にインセンティブを与えるようにしたとはいえ、それからすぐにオリジナルコンテンツが充実するわけではありません。この時期の動画投稿者は世間一般からすればまだまだ無名であり、未だ日の目を見ることのない地下に潜ったイメージの存在でした。

したがって、この時期はまだYouTube側も違法コンテンツを完全に排除するということはせず、オリジナルコンテンツと違法コンテンツのハイブリット型でアクティブユーザーを増やしている段階です。そしてそのフェーズは向こう数年間続くことになります。

【2012年】一般向けにYouTubeパートナープログラムを開始


そして2012年、Googleはそれまで審査制だったYouTubeパートナープログラムを一般に公開しました。一部の限られた動画投稿者へのインセンティブ付与で大きく成功イメージを掴んだGoogleが、その制限を解除して大幅な勢力拡大に乗り出したことになります

これにより、誰でもすぐにYouTubeパートナーとなって動画から広告収入を得ることが可能になりました。これを起点として「純粋に動画投稿が好きだから」という理由で投稿する人だけではなく「お金が稼げるから」という理由で投稿する一般層も少しずつYouTube市場に参入してくることになります。

ただそれでも、YouTubeでお金が稼げる事実はまだまだ世間一般に広く知られる感じではなく、この時期に参入していたのは全体からすればごく一部の人でした。

ちなみ、私がYouTube市場に参入したのもこの頃(正確には2013年)です。当サイトも初めはYouTube専門ブログとして立ち上げており、当時はそのくらいYouTubeを研究していましたのでこの頃のYouTube事情はよく知っています。「YouTubeで稼ぐ方法」といった類のYouTube系商材が初めて出たのもこの時期です。

この頃のYouTubeは審査なしで(操作としてはプログラム参加への同意ボタンを押すだけで)すぐに動画に広告が付けられたため、テレビ番組をアップロードした違法動画や他人の動画をコピーしたパクリ動画にも広告がついているという状態でした。そのような動画は削除とアップロードのいたちごっこ状態で、当時は収拾がつきそうになかったのを覚えています。

なお、今のような顔出しユーチューバーは、この2013年頃でも日本ではまだ広く世間一般に知られることはありませんでした。彼らが広く認知されるようになったのはその翌年になります。

【2014年】日本でもYouTuberの認知度が一気に拡大


2014年秋頃、「好きなことで生きていく」というフレーズと共にユーチューバーという存在がテレビCMで取り上げられ、世間で大きな注目を集めました。そしてこれと同時に「YouTubeで稼げる」という事実も日本で広く認知されるようになりました。

テレビCMを打つくらいなので、この時期のYouTube運営側はプラットフォーム上のアイドル的スターを多数輩出することに注力していたことがわかります。CMによってそれまで地下に潜ったイメージの存在だったユーチューバーを地上に上げ、彼らが日の目を見るように仕向けたのです

そして、それはYouTube運営側の思惑通りとなりました。やはりテレビ(CM)の力は絶大で、これ以降小学生のなりたい職業ランキングには「YouTuber」というワードが入るようになり、彼らは瞬く間に多くの子供たちの憧れの存在となったのです。

ここから、日本でもユーチューバーに憧れて動画投稿を始める人、ただただお金を稼ぐために動画投稿を始める人、それらの動画を楽しんで視聴する人などが加速度的に増えていき、YouTubeは急激なスピードで成長していくことになります。2014年の時点でYouTubeの月間ユニークユーザーは10億人を超えており、完全にYouTubeバブルの到来となりました。

それから数年間、日本でも新規ユーチューバーも続々と台頭し、人気ユーチューバーが乱立する中で彼らの動画のクオリティもどんどん上がっていきました。

【2017年】YouTubeチャンネル収益化の条件変更


しかし、人気ユーチューバーの動画のクオリティが上がっていく一方で、別の人たちによってクオリティの低い動画もYouTube上に大量に投稿されるようになったことは事実です。

「どうやらYouTubeは稼げるらしいぞ」という噂が広まって以降、動画で効率よくお金を稼ごうとする人たちが多く現れ、彼らによって誰でも比較的簡単に作成できる低品質動画がYouTube上に量産されたのです。

例えば、一つの画像を背景にして文字を下から上にスクロールさせてBGMをくっつけるだけの動画はその典型です(映像なし・ナレーションなしの、いわゆるテキストスクロール動画です。)そのような動画は、一部の視聴者にとっては需要があり再生回数もそれで稼げたのですが、多くのユーザーにとっては鬱陶しいものであったことも事実です。

そんな状況の中、YouTubeの運営側はついに低品質コンテンツの規制に踏み切ります。

2017年4月に、一度「総再生回数10000回以上」というチャンネル収益化の条件が設定されましたが、さらにその後の2018年2月にはその収益化の基準が大幅に変更され「チャンネル登録者1000人以上・総再生時間4000時間以上」という条件をクリアしてから収益化の審査がなされる仕様となりました。

そしてさらに、先に挙げたような「背景が一つの静止画のみ・ナレーションもなくオリジナル要素の薄い・教育的価値がない」とみなされるような低品質動画ばかりのチャンネルは、上記の条件をクリアしても収益化の審査が通らない事態になったのです。

このことから、YouTube運営側はここにきてプラットフォーム上のコンテンツの質を一定水準に上げる施策に出たことがわかります。違法コンテンツだけではなく、(法的には問題のない)低品質コンテンツに対しても大きな規制を加えたのはこれが初めてです。

これにより、テキストスクロール動画に代表される低品質コンテンツは一気にYouTube上から消えることになりました。それらの動画は削除の対象になったわけではないものの、収益化の対象からは外されたためその類の動画を投稿する人がいなくなったのです。

【2018年】YouTubeプレミアムサービスの開始


そして、YouTube上のコンテンツのクオリティが一定水準に引き上げられると、YouTube運営側は2018年11月、満を持して「YouTubeプレミアム」というサービスを開始します。

このサービスは元々2015年10月に「YouTube Red」という名称でスタートし、それまでは米国をはじめとしたごく一部の国でのみ提供されていました。それが2018年に「YouTubeプレミアム」に名称変更され、日本でも提供がなされるようになったのです。

このサービスの目玉は何といっても、“広告なしでYouTube動画の視聴が楽しめること”です。いわば、多くの視聴者にとっての「広告が鬱陶しい」という不満を解消し、ストレスフリーでYouTube動画の視聴をしてもらうためのサービスです(その他オフライン再生等のサービスもありますがそれらは取ってつけたようなもので、メインは広告なしで動画を視聴できる点にあります)

しかし、そもそも視聴者にとっての鬱陶しい広告を表示させているのはYouTube側です。YouTube側はまず、広告を掲載したいと思う個人や企業からお金をもらい、その広告をYouTube上に表示させています。そしてその後「YouTubeプレミアム」のサービスによって、表示された広告を消したいと思う視聴者からもお金を取り、自ら取ってきた広告を一部非表示にしているのです。

つまり冒頭でも述べたとおり、Googleは商品・サービスを販売する個人や企業に対しては「お金を払ってくれれば広告載せます」と言ってお金をとりながら、同時にYouTube視聴者に対しては「お金を払ってくれればその広告消します」と言ってお金をとっていることになります。

二面の顔を使い分け、両者に対してそれぞれ真逆のサービスを提供してその両方から暴利を貪る点はさすが天下のGoogleです。まさに資本主義の鬼といえるでしょう。

ただ、こんなものでは終わりません。Googleはこれ以降、さらなる強硬姿勢を見せることになります。

【2020年】ミッドロール広告挿入可の動画の条件が変更


2020年7月、YouTubeはミッドロール広告の挿入条件を変更しました。ミッドロール広告とは「動画の視聴途中に表示される広告」のことで、動画投稿者側が任意で設定できます。


そのミッドロール広告について、これまでは「10分以上の動画」のみ挿入可能となっていましたが、その条件が緩和されて「8分以上の動画」に変更されました。

これにより、動画投稿者はこれまでよりもミッドロール広告を挿入しやすくなり、これまで以上に動画からの広告収入を稼ぎやすくなったということが言えます。したがって、これは一見すると動画投稿者に優しいだけの措置のように見えます。

しかし、YouTube側の狙いはもちろんそこではありません。

この措置によるYouTube側の本当の狙いは「視聴者にとって最も邪魔になるミッドロール広告が挿入されやすくなることで、YouTubeプレミアムの加入者を増やす」という点にあります。つまりこれは、広告が鬱陶しいと思う視聴者が増えれば増えるほどYouTubeプレミアムの加入者が増える、という構造を把握した上でのYouTube側の施策なのです。

YouTubeプレミアムは一見すると視聴者の悩みを解決するサービスであるかのように見えますが、実はその悩みそのものを作っているのもYouTubeなのであり、この施策は視聴者の悩みを増大させることで自分のサービスの需要を増大させるものと言えます。

そしてこのような暴利を貪るGoogleのやり方はもはや止まることを知りません。YouTubeの月間ユニークユーザーが20億人を超えたあたりから、Googleはさらにえげつない手段に出ます。

【2021年】収益化していないYouTube動画にも広告表示


2021年、YouTubeは収益化していない動画にも広告が表示される仕様になりました。つまり、YouTubeパートナープログラムに参加していない動画投稿者の動画にも(その投稿者の意思に関係なく)広告がつくようになったのです。

それまでは、自分の動画に広告をつけるかどうかは動画投稿者が決めることが可能でした。動画投稿者の中にはYouTubeを収益目的で利用しているわけではない人もおり、そのような人にとっては視聴者が鬱陶しいと思う広告を自分の動画につけることを好むわけがありません。

しかしこの仕様変更により、嫌でも自分の動画に広告がついてしまう事態になったのです。

GoogleはYouTubeプレミアムの加入者をさらに多く増やすために、ついには(一部の動画配信者への配慮もなく)視聴者にとって鬱陶しい広告を全動画に表示させる強硬手段に出たということです。これはいわば解毒剤をなるべく多くの人に販売するためにあらかじめ全ての料理に毒を盛り込んでおくような行為で、冷静に考えるとかなりえげつないと言えます。

もちろん動画投稿者からすれば、自分の動画に広告が表示されてもYouTubeパートナープログラムに参加していなければ自分にお金は入ってきません。ただ自分の動画に広告が表示されるだけであり、その広告を消すことは動画投稿者にはできないのです。

もはやここまでくるとGooogleのやりたい放題です。

・広告を出稿したい個人や企業には「広告載せたければお金払ってね」と言い
・広告収入を得たい動画投稿者には「広告はいっぱい付けてもいいよ」と言い、
・広告収入が不要な動画投稿者には「広告付けないことはできないよ」と言い、
・広告を鬱陶しいと思う視聴者には「広告消したければお金払ってね」と言う

このように、プラットフォーム上の中央に位置する者が全てを支配している構図が見て取れます。プラットフォームのユーザーはその中央の支配に抗うことはできません。これが、YouTubeが構築しているえげつないビジネスモデルなのです。

まとめ


このような経緯で、はじめは誰も知らないような弱小プラットフォームだったYouTubeは、今や市場の頂点に君臨する超巨大媒体へと変貌を遂げました。

ユーザーの違法な行為を一部黙認するところからはじまり、さらに一部のユーザーにインセンティブを与えながら規模を徐々に拡げ、その後少しずつクリーン路線にシフトしながら全てのユーザーが得をするような(良心的に見える)場を構築していき、最終的にはその場のすべてを支配下に置く…

そのやり方は、えげつないながらも自分でビジネスをする立場の人間にとっては参考になる点は大いにあると感じています。

そして以上のことから分かるように、Web2.0の時代は表向きには「特定の媒体を利用して個人が自由に情報を発信・受信できる時代」と言われていますが、実質的にそこには本当の意味での自由はありません。

YouTubeの場合、動画削除の権利や収益化基準決定の権利など、その生殺与奪の権利は中央に位置するGoogleが握っています。ユーザーはそのプラットフォーム側の支配に抗うことはできず、結局おいしいところはすべてプラットフォーム側がゴッソリと持っていくのです。

このような一部の者が支配権を握る中央集権型のウェブのあり方のアンチテーゼとして叫ばれているのが、ウェブの非中央集権化(分散化・民主化)を目指す「Web3.0」ということになります。

ぜひこれまでの内容をご自身のビジネスに役立てていただければ幸いです。

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