前回の記事では「一貫性の原理」という人間心理と、その心理を利用したマーケティング手法である「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」について触れました。
(前回の「一貫性の原理」の記事は ⇒こちら

今回は、一貫性の原理を利用したもう一つの手法「ローボール・テクニック」というものを紹介します。

ただ初めに断わっておくと、このローボール・テクニックは一般的にあまり好ましいものではありません。少なからず「人を騙す」ような要素が含まれているという印象を受けますし、実際にこれをやられた側は「話が違うじゃねーか!」という感覚に陥ります。

ただ、あらゆるビジネスで応用されているということもあり、自分が騙されないようにするためは知っておいて損はないと思いますので、一応ここでは「こんなテクニックがある」という紹介だけしておきます。


ローボール・テクニックとは?



「ローボール・テクニック」とは「最初に魅力的な条件を提示して相手を食いつかせ、相手の承諾を得た後、事後的にマイナスの条件も明かす」という、人間心理を利用したテクニックです。

ただ、正直この説明だけではイメージが湧きづらいと思いますので、以下で具体例を挙げて解説していきましょう。


ローボール・テクニックの具体例


では、まずは電化製品店での以下の店員と客の会話に目を通してみて下さい。

A「お客様、こちらのパソコンなんかいかがですか?この製品は、新社会人応援セールの対象商品となっておりまして、ちょうど今なら、10000円引きでお求めいただけるんですよ」

B「(10000円引きか…それはいいな!)じゃあ、それ下さい!」

A「かしこまりました。ではこちらにおかけください。はい、こちらのノートパソコンですね。ありがとうございます。ちなみにこちら、充電器の方は別売りになっておりまして…」

B「・・・は、はい。」

上の例では、店員Aは最初に「10000円引き」という条件のみを提示しています。そしてBさんがそれに食いついて購入を申し出ると、「充電器は別売り」という別の条件を後から付け足していますね。

「最初に魅力的な条件を提示して相手を食いつかせ、相手の承諾を得た後にマイナスの条件も明かす」というのはこういうことです。

人は、後から悪い条件を提示されても、その前に一度承諾の意思表示をしてしまっている以上、その意思を撤回しづらくなってしまいます。この場合、もし最初に「充電器は別売り」という条件も提示されていれば、Bさんは購入を決断しなかったかもしれません。しかし店員Aはそれを最初の時点で明かさないことで、まずは購入の決断を促しているのです。

これも、「一度意思表示をしてしまうと後戻りしづらくなる」という一貫性の原理をついたテクニックと言えます。

ちなみに、このローボールという名前は「とりやすい低い球(ローボール)を最初に投げるように、初めに好条件だけを提示し、相手にとってそれが魅力的なものだと思わせる」という点に由来しています。


ローボールテクニックは詐欺ではないが…


ただこれ・・・ズルくね?

「最初の段階で提示されていれば承諾しなかった可能性のある悪い条件を、あえて最初の段階では明かさず隠している」という点がずる賢いですね。

もちろん、こんなものは詐欺とは言えません

このテクニックを使う側からすると「最初に提示した条件以外にも実は条件があるということを、実際に相手が購入する前に伝えているので騙してはいない」と主張するでしょう。それはその通りで、確かに消費者に対しては購入前に選択の自由を与えています。

しかし、後から発言を撤回しづらくなる人間の心理を逆手に取って「あえて初めに相手に不利な条件を伏せている」というのは、道徳的には非となる行為といえる気がします。法的には全く問題ないのですが、道義的には「う〜ん…」という感じがする手法ですね。



P.S.

ちなみに、これは初めに低い要求を提示するという点で、前回取り上げた“フット・イン・ザ・ドア・テクニック”と似ていると感じたかもしれません。

しかし、両者は以下の点で明確に違いがあります。

■【フット・イン・ザ・ドア】
最初の要求と次の要求は、両方とも別個の要求である

■【ローボール・テクニック】
要求そのものは変わらず、その中の提示する条件が最初と次で異なる

前後で提示する要求自体が同じなのか別物なのか、という違いです。

「ローボール・テクニック」は、前回の「ドア・イン・ザ・フェイス」前々回の「フット・イン・ザ・ドア」と併せて違いを明確にしておきましょう。