アドラー心理学の目的論・課題の分離・共同体感覚をわかりやすく解説
今回は「アドラー心理学」を具体例を挙げながらわかりやすく解説していきます。

この記事を読むことで理解できること
◎「アドラー心理学とはどのようなものか?」
◎「トラウマを解消するための究極の考え方とは?」
◎「対人関係の問題を根本的に解決するために何が必要なのか?」
◎「本のタイトルにもなった『嫌われる勇気』の真意とは?」

今回の内容はビジネスにおいて役立つだけではなく、人生全般において参考になる考え方を享受できるのでぜひ最後まで読んでこの内容を今後に活かしてほしいと思います。

それでは、まずはアドラー心理学の中身を簡潔にまとめたこちらの動画からご覧下さい。


以下、アドラー心理学について詳細に説明していきます。

アドラー心理学を解説するにあたって


ここで取り上げる「アルフレッド・アドラー」という人物は、「ジークムント・フロイト」「カール・グスタフ・ユング」と並ぶ、心理学の三大巨頭の一人とされている人物です。

この記事では、そんなアドラーの提唱する学説の中で「特にこれだけはおさえておくべき」と感じたポイントを三つピックアップし、その重要な三つを中心に解説していこうと思います。

その三つとは、以下の通りです。

◎「目的論」
◎「課題の分離」
◎「共同体感覚」

上記三つをしっかりと理解すれば、アドラー心理学の大元を押さえることが可能です。

それでは、上記三点について一つずつ細かく解説していきましょう。

アドラー心理学①「目的論」

(左がフロイト、右がアドラーです)

先ほど心理学者の三大巨頭と言われる人物の一人としてフロイトあげましたが、実はアドラーはこのフロイトとは真逆の考え方を持っています。アドラーの提唱する「目的論」は、フロイトの唱える「原因論」とはその性質が正反対なのです。

そこで、ここではわかりやすいように、フロイトの「原因論」と比較した上でアドラーの「目的論」を解説していこうと思います。



【フロイトの原因論】


フロイトの「原因論」は「現在その人に生じている問題は、過去の出来事を原因として起こったものだ」という立場をとります。

例えば、現在「外出することを過度に恐れ、引きこもり状態になっている」という問題を抱えている人がいるとします。その問題に対して、フロイトは「外出することができないのは、過去に外出先でいじめにあったからだ。過去のいじめが無意識にトラウマとなり、それによって外出することを恐れているのだ」という立場をとります。

「過去に起こったことが原因となり、その結果として今問題が引き起こされている」という考え方ですね。


原因論における過去と現在の位置付け
 過去→現在
(原因→結果)

したがってこのフロイトの原因論では、今起こっている問題を解決するためには「過去に起こった原因を追究し、それを意識化してしっかり向き合っていくことで克服していこう」という立場をとるのです。

しかし、これには問題があります。無意識の中にある原因(この場合は過去のいじめ)を鮮明に思い起こして意識化しても、それによってかえって症状が悪化してしまうということがあるのです。原因を意識化するということは、忘れかけていたつらい過去を呼び覚ますことになるからです。

また、この原因論では「現在は過去によって規定されてしまう」という側面をもっています。「過去と現在」が「原因と結果」の関係になるのであれば、一旦過去が決まればそれに伴って現在は自動的に決まってしまうからです。

これでは、現在は過去に抗うことができない「決定論」的な運命になってしまい、永遠に人の人生は変えられないことになってしまいます。いつまでも「現在は過去に支配されている」ことになるのです。

【アドラーの目的論】


これに対して、アドラーは「目的論」というものを唱えます。これは「現在抱えている問題は、今の目的がそうしているだけである」という立場をとるものです。

これを上と同じ例に当てはめて考えていくと、アドラーは「その人が外に出られないのは、そもそも『外に出たくない』という目的が頭の中に存在しているからだ」と考えます。「外に出たくないという目的がはじめにあり、それを果たすための手段として過去にいじめられたという出来事を使っているだけだ」と考えるのです。

つまり「今の目的に都合のいいような形で、過去を解釈しているだけだ」ということですね。


目的論における過去と現在の位置付け
 現在→過去
(目的→原因)

上に示した通り、このアドラーの考え方は、フロイトの原因論とはベクトルが完全に逆になります。そうすると、「今問題だと思っていることは実は問題でもなんでもなく、今の目的(意識)を変えるだけで、その問題は解消される」と気づくことができるのです。

この考え方に立った場合、フロイトの「原因論」のように現在が過去の出来事に縛られることはありません。現在の目的を変えるだけで、過去を再定義できるからです。

重要なのは、過去の出来事を原因として突き詰めることではなく、今をどのように捉え、過去をどのように解釈していくかということであるとアドラーは言っています。

このように考えることで「今この瞬間から人生を変えることができる」ことになるのです。


以上、フロイトの原因論と比較した上でアドラーの目的論を解説しましたが、これらはどちらも一つの学説に過ぎません。したがって「どちらが正しいか」という視点で見ても、両者ともに賛否両論あるのです。

ただ、「どちらが正しいか」ではなく「どちらの見方で捉えれば、その後の人生が豊かになるか」という点で考えると、このアドラー的な考え方は有意義なものと言えるのではないかと思います。

アドラー心理学②「課題の分離」



では、大きなポイントの二つ目「課題の分離」について説明していきます。

アドラー心理学における「課題の分離」とは「自分の課題と他者の課題とを明確に分け、他者の課題には介入すべきではない」という考えになります。

具体的に言うと、例えば次のような状況があったとします。

自分は転職を考えているが、嫁にその転職を反対されている

夫は自分の可能性を追求するために転職をしようとしているが、嫁は夫の年収が下がることを懸念して転職することに反対している、という状況ですね。

これを「課題の分離」に沿って考えるのであれば・・・



【夫の課題】


そもそも、転職をするかどうかというのは「夫の課題」です。

するとこの場合、嫁は夫が転職することを止めるべきではありません。嫁が転職について口出しをした時点で、嫁は夫の課題に介入していることになるからです。「年収が下がると生活が困るからダメ」と言っても、どの職に就くかということ自体は夫の課題なのです。

また、夫としては嫁の「転職しないでほしい」という期待に応える必要もありません。他者の期待に応えるという行為…これも他者は課題に介入していることになるからです。

【嫁の課題】


一方、転職をする夫をどう評価するかというのは「嫁の課題」です。

そうすると、夫は自分が転職することについて嫁からの承認を求めるべきではありません。どう評価するかは嫁の課題であるため、嫁からの承認を求めた時点で、夫は嫁の課題に介入していることになるからです。

したがって夫の方は、たとえ自分の転職という行為に嫁が理解を示してくれなかったとしても「どうしてわかってくれないんだ!」などと不満を口にすべきではありません。

またこの場合、夫が転職することを理由に、離婚等の選択をとることは嫁の自由になります。夫の年収が下がるということは、今の生活に少なからず支障をきたすことになりますので、そのような問題を解決するために「自分で稼ぐ」といった選択をとる、あるいは「他の年収が高い男に乗り換える」といったことをするのは嫁の課題の範囲になるのです。

(生活が困ることを理由に夫の転職に制約を加えることはできませんが、その生活の問題を解決できる手段を自分の課題の範囲内で講じることは嫁の自由ということですね)

他者の課題への介入の裏にあるもの


そもそも、アドラーは「対人関係のほとんどは、他者の課題に介入すること、あるいは自分の課題に介入されることから生じる」と言っています。

他者の課題に介入することこそが自己中心的な考え方であり、「○○をしてあげる」というのは、一見他者のためを思ってやっているように見えても、実は「他者から認められたい」という自分の欲求を満たすためになっていることが多いのです。

また、先ほど触れたように、他人の期待に応えようとするのも他者の課題に介入していることになりますが、これも同じように「他者から認められたい」という承認欲求からくる行動ということになります。

したがって「課題の分離」をしっかりと実現するには、承認欲求というものを捨て去らなければならないのです。

そして、この承認欲求というものと深く関わってくるのが、この記事で最後に取り上げる大きなポイントの三つ目「共同体感覚」なのです。

アドラー心理学③「承認欲求と共同体感覚」



では、最後にこの「共同体感覚」を、承認欲求と比較したうえで解説していきましょう。

承認欲求とは、「他者から認められたい・否定されたくない」という欲求です。「他者から評価を得ることで、自分が価値ある存在だと認識できる」という感覚と言うこともできます。

一方で共同体感覚とは「共同体の中の一部として、重要な役割を担っていたい」という感覚です。こちらは「全体に貢献することで、自分が価値ある存在だと認識できる」という感覚になります。

この二つの違いは「他者から自分にベクトルが向けられることで、自分の存在意義を確認する」のか、それとも「自分から他者にベクトルが向くことで、自分の存在意義を確認する」のか、という違いになります。

アドラーは承認欲求ではなく、共同体感覚を持つことが重要だと言っています。他者からの承認を求め、常に他者の目に縛られて行動している限りは本当の自由は得られないのです。

では、共同体感覚を持つためには何が必要なのか?このためにアドラーは挙げているのは、次の三つです。

①ありのままの自分を受け入れる(自己受容)
②他者に期待するのではなく、信頼する(他者信頼)
③他者の役に立ってみる(他者貢献)

これによって承認欲求は完全に消え、他者の目を気にした不自由な生き方から解放されることができると言っているのです。

なお、ここで言う他者の目を気にした生き方とは「他者から嫌われたくない」と思う生き方ということになります。それが不自由な生き方だと言っているのです。

そうすると本当に自由な生き方とは、他者の目を気にしない「嫌われる勇気」をもつ生き方ということになります。これが、本のタイトルとして非常に有名になった言葉ですね。

アドラー心理学のまとめ


以上、アドラー心理学の大きな三つのポイントについて解説しました。これまでの内容を簡単にまとめておくと、次のようになります。

アドラー心理学のまとめ
【目的論】
現在起こっている心理的問題は、今の目的がそうしているだけである。現在を変えるだけで過去の意味づけが変わり、人生を変えることができる。

【課題の分離】
「自分の課題」と「他者の課題」とを明確に分け、他者の課題には介入すべきではない。

【共同体感覚】
他者からの承認を求めるのではなく、全体の一部として貢献することで、自分が価値ある存在だと認識できるという感覚を持つ。

先ほども述べたように、アドラーの考え方は「正しいか・正しくないか」といった物差しで測ると賛否両論があります。ただ「そのような考え方をした方が、人生がより豊かになる」と捉えるのであれば、アドラーの考え方は非常に有益なものと言えるのではないかと思います。

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