イスラム国とは、アメリカの9.11同時多発テロの首謀者・ウサマビンラディン率いる「アルカイダ」から独立した組織です。



その詳細な歴史等はあまり知らないという人でも、何度も公開される人質の処刑映像を見て「その残虐性・凶悪性だけはどうしても頭から離れない」という人も多いのではないでしょうか?

このイスラム国は新たな国家を樹立するということを目的に活動しています。そして実はこのことが、これまでのテロの組織とは違った極めて異質な点なのです。

・一般的テロの特徴 =「既存のものを破壊する」
・イスラム国の特徴 =「新たなものを創造する」

彼らはイスラム国という実際には国ではないものを国として認めさせることを目的としています。「国家樹立」を宣言し、世界各国の若者を戦力として加えながら武力によって各地を制圧し、どんどん勢力を拡大させている脅威のテロ組織・・・それが「イスラム国」なのです。

そんなイスラム国について、今回の記事ではビジネス(マーケティング)の視点から彼らの活動を考えていきたいと思っています。

というのも以前、北海道大学の一人の学生がイスラム国の戦闘員に志願するというニュースが話題になったのを覚えていますでしょうか?

その北大生は“自らの意思で”イスラム国に加入しようとしました。

つまり「強制的に」ではなく「自発的に」行動を起こそうとしたことになるのですが、その行動というのは、テロ組織の一員として「人を殺す」ことも伴う、いわゆる一般の常識で考えた場合にはありえないような行動です。

要するに、人から勧誘されても普通の人であればためらってしまうであろう行動を、この当時の大学生は自発的に起こそうとしたのです。

「あり得ないようなことをも自発的に行動にうつす」

この若者のイスラム国に志願する行為は、「人に行動を起こさせる」というマーケティングの重要な部分を考えるにあたって、非常に学ぶべきものが多いと思います。

この大学生の背景には何があったのか…そしてそれとイスラム国の活動がどのようにリンクして心のブレーキ(メンタルブロック)がはずされ、普通ではあり得ないほどの行動を起こさせたのか…

それを紐解くことで、今回はビジネスを実施する上でも重要となるマーケティングを考えていきます。

それでは、まずは内容を簡潔にまとめたこちらの動画をご覧ください。


以下、詳細に解説を加えていきます。


イスラム過激派を扱うにあたって…


※ここで一つ断りを入れておきます

本記事のタイトルには「イスラム国」「学ぶ」という表記がありますが、本記事はイスラム国という組織の存在を肯定しているわけではありません(かといって否定しているわけでもありませんが)

ここでイスラム国やそれに敵対する各国政府に対して「善/悪」というレッテルを貼るつもりは全くありません。あくまでこの記事は「イスラム国の一連の活動」と「戦闘員として志願する若者の心理・行動」をマーケティングの視点に応用することに徹したものになります。


イスラム過激派が注目した現代の若者の特徴


まず、その北海道大学の学生には「人生の目的が見出せない」という背景があったと言います。彼は警察の事情聴取に対して次のような主旨のことを話していたようです。

「自分は高校卒業後に一旦就職しその後一流と言われる北海道大学に入ったが、結局これから何をして生きていいのかもわからない…。やりたいことも見つからないまま漠然と就職活動を続けていくも、やはり結果はなかなかうまくいかない…」

つまり、彼には自分のしたいこと・欲しいものが定まっていなかったのです。一応就職活動はするものの「それが本当に自分のやりたいことか?」と自問自答すると、そこには自信をもって頷けない自分がいたようです。

彼に「今ほしいものは何ですか」と聞いても「特にない」という答えが返ってくるでしょう。そのような返答をする人は意外にも多いのです。

これは日本に限らず、先進国全般に言えることかもしれません。

ある程度物質的に満たされている中で自分が何をしていいかわからない。何かに取り組んでいても、部屋で一人きりになってふと我に返った瞬間、今の生活を疑問視してしまう自分がいる。大義名分を与えられていない、そんな状況の中である種の虚無感に陥り、今後の人生に漠然とした不安だけが残っている…。

そしてそんな時に、この北大生は秋葉原にある古書店に貼られた一枚の求人広告を見ることになります。

「勤務地:シリア / 詳細:店番まで」


一見するとふざけているようにも見えるほど簡素なこの求人広告を見て、この北大生の頭の中ではこれまでに見たシリアでのイスラム国の映像が再生されることになります。そして今の自分の生活とシリアでの戦闘員の活動を比較することになるのです。

「自分は人生の目的も何も見いだせず路頭に迷っているが、シリアでは自分達の信念を貫き、生死のはざまであっても自分達の正義を実現しようと活動している人たちがいる。新たな国家を樹立して今までの世界を変えようとしているそんな人たちが同志を募っている…もしかしたらここが、自分の生き方を見出せる場所かもしれない」

イスラム国の「国家樹立」という強く掲げた信念に大きく心を揺さぶられ、この北大生のメンタルブロックは崩壊することになります。

「そうだ、これまでにはない国をつくるんだ!」

この「国造り」という壮大な構想に自らの大義を見つけ、そこに今までの虚無感からの突破口を見出し、シリア行きを決意したのです。

まとめると、

人生の目的を見出せない状態・漠然とした不安がある中で、
大義名分を見出せる壮大な構想が別の場所で打ち立てられる

この二つがマッチしたことによって、この北大生の心は大きく動き、一般では考えられない行動をも自発的に起こすことになったのです。

そして一部のテロの専門家によると、このイスラム国は、この若者特有の「人生の目的を見出せない」という事情を考慮した上で、狙って勧誘活動をしている可能性もあるとのことです。

もしそうだとすれば、これは市場を観察した上で巧妙に企てられたマーケティング戦略ということも言えます…。


従来のマーケティングと今後のマーケティング


このイスラム国はネットを使って映像を配信することで、戦力となる世界各国の若者の参加を募っています。北大生の直接のきっかけになったのは一枚の紙ですが、それでもそれ以前に何度かイスラム国の映像はネットで見ていたはずです。

ネットを駆使して人を集めていくという意味では、ネットマーケティングを施しているということが言えるのですが、ここで一度ビジネスにおける「従来のマーケティング」と「今後必要になるマーケティング」を簡単にまとめておきましょう。


A【従来のマーケティング】
①市場にいる人の悩みを聞く
②悩みを解決できる商品をつくる
③商品を必要としている人(リスト)を集める
④集まった人に商品を販売する

※人の顕在化した悩みを解決する商品を作る
「商品を作る」→「人を集める」の順番

B【今後のマーケティング】
①市場の人を観察あるいは対話し、心の声を拾う
②その人たちに響く自分の信念を打ち立てる
③信念に共感してくれた人が集まる
④集まった人に対して商品を提案する

※人の潜在的な心の声に響くコンセプトを掲げる
「人を集める」→「商品を提案する」の順番


では、説明していきましょう。

まず、Aの従来のマーケティングでは、お金が動いている市場にいる人に対して欲しいものや悩みを聞き出し、それを商品として作って売る、というのが基本スタイルでした。

「商品を作る」→「それ必要としている人を集める」→「売る」という流れですね。商品を先に作り、その商品の属性に合った見込み客を集め、その人たちに向けて販売していく、という戦略です。

これは既に人々の悩みや欲しいものが明確になっている場合には有効な手段です。ほしいものが決まっていて、その商品が売っているのなら、基本的には人はそれを買うという行動に移ることになります。

しかし現代では、この北大生のように、自分のしたいこと・欲しいものが明確に決まっていないという人もたくさんいます。「就職活動はしているもののそれが本当にやりたいというわけでもない、そして実際にほしいものは何かと聞かれても、明確には答えられない」そのような人が現代では非常に多いのです。

このような状況では、人のほしいものを聞き出すこともできないために具体的な商品を作ることができません。潜在的な悩みは漠然とあっても、それが顕在化していないため、悩みを聞き出すことができないのです。

また、現在では顕在化した悩みを解決する商品は溢れかえっています。例えばダイエット商品であれば、もう既に様々なダイエットノウハウや食品はあふれかえって飽和状態にあります。そんな中で新しいダイエット商品を作っても、なかなか売れる状態にはならないということもあるのです。

したがって現代のネットビジネスにおいては、このマーケティングはさほど通用しないものになっているのです。顕在化した悩みもないし、先に商品を作ってもその属性の商品は
既に飽和していることがある…。


そこで重要になるのが、Bのような手法です。

Bのマーケティング戦略ではまず、市場にいる人をしっかりと観察し、その人たちの中に潜在している心の声をすくい取ります。そしてその人たちの心に響くような強力なコンセプトを打ち立てることによってそれに共感する人を集め、その人達に商品を提案するというものです。

この手法はイスラム国のメンバー勧誘活動にも当てはまります。イスラム国の場合は商品を売るわけではないですが、人を集めるという点では彼らも次のようなステップを踏んで若者を集め、次第に戦力を拡大させているのです。

①先進国の若者を観察し「目的が見出せない人が多くいる」という状況をしっかり把握する
②「これまでの常識を覆し新たな国を創造していくべきだ」という強大なコンセプトを映像を通して打ち立てる
③路頭に迷っている多くの若者の心にこの言葉が突き刺さり若者がイスラム国に志願するようになる
④集まった人たちに対して職務を与え、共に国をつくっていく

彼らは市場を観察し「先進国の若者が生きる意味を見出せない」という状況にあることをしっかりと把握しています。

その上で映像を駆使し「自分たちは新しい国を作って世界を変えていくんだ!」という壮大なスローガンを掲げることで、生きる意味が見出せない多くの若者の心を動かすことに成功しているのです。

そして結果として多くの若者がこのイスラム国に志願するようになっています。

現にこの時の北大生も、初めから「シリアに行きたい」という欲をもっていたわけではありません。初めはしたいことなんてなかったのです。

顕在化した悩みがなく、漠然と生きる目的を見出せないでいる状況の中、常識を覆すような“世界観”に出会うことによってメンタルブロックが崩壊し、結果的にシリア行きを決意することになります。

漠然とした潜在的な悩みにマッチした世界観に出くわすと、人はそれに大きな衝撃を受けることになるのです。


マーケティングのまとめ


さて、ではまとめておきましょう。従来のマーケティングでは

●人の顕在化した悩みを聞き出す
●ものを作ることで人を動かす
●商品を作るのが先、人を集めるのはその後

という特徴があったのに対し、これからのマーケティングでは

●人の潜在的な悩みをすくい取る
●世界観を打ち立てることで人を動かす
●人を集めるのが先、商品を作るのはその後

ということが重要になってくるということですね。

「もの・ノウハウ」で勝負するのではなく「オリジナルの世界観」の中で独自の価値を生み出す…イスラム国の例を取り上げても、これはもう人を動かす今後のマーケティングを考えるうえでは必須のものになると言ってもいいと思います。